【森のエッセイ】No.6 中一娘がクライマー⁉
森には家族で行くことも多いが、実は娘はあまり自然が好きでない。
正確に言えば、極度の虫嫌い。山に行けば当然、虫がいるので、いい森を探してあちこち車で回っていた頃は、車からさえ降りてこないことも多かった。「せっかく来たんだし、歩いてみれば」と娘(当時小学生)に言っても「うちは、いい」と言って車内から出てこなかった。
幸いキャンピングトレーラーを森に引き込んでからは態度が少し変わった。
単純にいえば、キャンピングカー内のインテリアや空間が気に入ったのだ。
それでようやく森に行ってもいいよ、と言うようになった。
キャンピングトレーラーは国産がほぼなく、僕のはフランスメーカーのものだが、さすがおフランス、内装は木目調でおしゃれ。娘の喜びそうなひらひらのレースのカーテンまでついている。窓はペアガラスで、網戸も完璧で虫は入ってこない。
(本当は自力で山小屋を建てるつもりで、当初はやる気満々でしたが、いろいろあって挫折。消去法で結果、キャンピングトレーラーになりました)
車内を360°カメラで
2年前、まだキャンピングカーを購入しようか迷っていたころ、お台場でキャンピングカーショーがあった。試しに家族で行ってみた。そのころからインテリア好きの傾向があった娘は、小さな空間ながら凝った内装に興味津々。娘は「かわいい!」「ここで寝てみたい」などと言いながら、興奮しながらほぼ全部の展示車の中を見て回った。
そんな娘が、今春、中学校(女子校)に入学した。
学校案内を何気なく見ていると、部活動にハイキング部があるらしい。
「ハイキング、いいんじゃない?」ととりあえず娘に言ってみた。 内心、まぁ、絶対入らないだろうけど、と思っていた。 というのも、山には当然虫がいるので。
森を手に入れたばかりのころ、まずは木を倒したり、下草刈りをしたが、娘も嫌々ついてきた。でも、常に付近の道路を走っていた。なんで走ってるの?と聞くと、「止まると虫が寄ってくるから」。絶句した。
虫嫌いは自宅でも同じ。ハエが一匹飛んでいるだけで大騒ぎ。僕の少年時代を思えば、家にハエがいるのは当たり前だったが‥。 さすがに最近は見ないが、昭和の田舎の家庭にはハエ取り紙というものがぶら下がっていた。もし、娘が今見たら腰を抜かすだろう。
そんな娘が最近になって、「ハイキング部に入ることにした」と言ってきた。
正直驚いた。 虫、大丈夫か?
僕と妻は同じ大学の山サークルの先輩、後輩として知り合った。だからもちろん、娘が山に登ることは嬉しいが、でも、なんで?という思いはあった。
あぁ、もしかして、と思い当たることが一つあった。 女子校のハイキング部だから、せいぜい丹沢周辺の山を歩くぐらいだと思っていた。 ハイキング部の見学に行って来た日、娘は「槍ヶ岳って知ってる?」と聞いてきた。
夏合宿は、なんと槍ヶ岳(北アルプス)に登るという。 仰天してしまった。 それってハイキングじゃなくて、クライマーの世界なんですけど‥(汗)。
僕と妻(槍ヶ岳登頂歴有り)は、娘に槍ヶ岳がどれだけすごい山なのか、少し興奮状態で説明した。 北アルプスは僕も学生時代、奥穂高周辺は行ったが、槍ヶ岳までは登ってない。 娘の中で、父親さえ登ったことのないスゴイらしい山に登るという野望がムクムクと膨らんできたのではないか。
妙に野心的なとことろが、娘にはある。それは時々、顔をのぞかせる。 スゴイ! と周囲に驚かれることを、大人からみればかなり単純な理由で行動に移す。 今回はそれが動機なんじゃないか。野心が虫に勝ったんじゃないかと‥。 (ホントにそうだったら、中一の野心ってすごいな・笑)
僕と妻が学生時代、ちょうど3K(きつい、汚い、危険)という言葉が流行っていた。サークル内の誰かが、「俺たちって、もしかして5Kサークルだよね」と自虐的に言ったことがある。前述3Kに加え、山登りは「臭い」「暗い」の2Kが加わるよね、と自嘲気味に笑いあった。だから、「山ガール」という言葉が出てきた時は、時代もホントに変わったなと感慨深かった。
今週末、娘は顧問の先生と一緒に山道具一式を買いにいくという。
僕が山道具をバイト代で揃え始めたのは高校時代。あれから30年数年‥‥。
まさか自分の娘が中学生で山道具を揃える日が来るなんて…。人生、何が起こるか分からない。とりあえず「5K」のエピソードは当分黙っているつもり。
ついこの間まで小学生で、せいぜい遠足しか知らない娘が、実際、槍ヶ岳に登れるかどうかはわからない。 でも、これで、虫嫌いは少し治るかもと、淡い期待を抱いている。 そして、いつか八ヶ岳の峰を一緒に歩ければ、それはそれで嬉しい。
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